何をするにも良い季節。
観たい映画は沢山あるけど、観たいというより観ておかなくてはという使命感のようなものに駆られて
「いのちの林檎」を。
いつもは映画の時間ってあっという間なのだけれども
この映画はすごく長く感じた。
主な登場人物はシックハウス症候群から化学物質過敏症を発症した早苗さんとその母である道子さん、
従来の農薬と肥料を使わないで林檎を育てることに成功した木村さん、の三人。
この母娘と木村さんは林檎の消費者と生産者という以外、直接の面識はないようなのだが、
木村さんが従来の薬に頼らないで林檎の栽培に成功するまでの困難な道のりは
そのまま日常から化学物質を排除することの難しさと向き合っている早苗さんの姿と重なる。
目指していた林檎が誕生するまでの苦労を語る木村さんと
流れてくる化学物質に反応して呼吸困難を起こす早苗さんの姿が交互に出てくる。
発作を起こしている早苗さんを大画面で見るのが本当に苦しくて、1分が10分に感じられる。
林檎の木がある風景に切り替わるとほっとしたりして。
皮膚の痒みや咳くらいであれば想像がつくのだけれど、
早苗さんの発作は驚くほど激しいもので、これが日に何度も起きたらそれこそ命に関わるし、何より普通の家に住むことが不可能。
ゴルフ場の農薬散布に始まり、道行く人のタバコの煙が窓から入ってきただけでも発作が起きる。
安心して息ができる場所を求めて車で移動して何日も車中に寝泊りする日々。
田舎に行けば空気が良いのではという予想に反し、ゴルフ場のそばを通過する度に具合が悪くなり、
公衆トイレに入ろうとすれば芳香剤で断念、コンビニに入るのも難しく、
ここなら安全だと思った信州の山中でも、強風が吹くと肥料や農薬が風に飛ばされてきて呼吸困難に。
大気はつながっている。
彼女が安心して暮らせる場所は日本にはもうないのかも知れない、
いや、海外の無人島にだって色々な漂流物は来るし上空には飛行機が通る。
人間が作り出した化学物質がまったく存在しない土地って今はどこにあるのだろうか。
私も香水や柔軟仕上げ剤の臭いを不快に思うことがあるし
何かで鼻水が止まらなくなったり化粧品でかぶれたりもするけど
発作のあまりの強さに、映画を観た直後でもこれは極端な例だとついつい思えてしまって
早苗さんの存在と自分の生活とが頭の中でつながっていかない。
香料、保存料、添加物、着色料、コーティング剤、塗料・・・
ありとあらゆる化学物質にさらされても何も感じない人々にとって
化学物質過敏症というものを身近な問題として理解することの難しさを感じる映画だった。
普通の生活が営めないほど苦しんでいる人たちが現実にいることを知ること、この問題にもっと興味を持つこと。
今後患者がどんどん増え続ける、なんていう事態にならないように
自分が食べているもの、生きていく中で関わっている人、モノに対する意識をより高めていこうと思う。
映画の中で、早苗さんが火傷にびわの葉を巻いていたのが印象的だった。
化学物質過敏症の人でもお灸のような自然療法を受けられるサロンがあったらどうかななんて夢想するが
うちが今のように色々な花が飾れるのは、農薬と化学肥料と優れた輸送手段の賜物でもある。
タオル類と施術着をオーガニックコットンに変えるくらいはできそうだが、立地が東京では矛盾か。
空気がきれいで窓から四季の移ろいを感じられるような景色が臨める治療院は憧れでもあるのでいつか実現させたい。
映画「いのちの林檎」を観てきた。
この記事を書いた人
Saori Takano
「ここに来て良かった!」と心から言っていただける治療室を目指しています。
鍼灸治療は人対人の相性が重要だと思っています。
来院するかどうか迷っている方は
ざっと眺めていただいて参考にしてくださいませ。