おしゃべりも治療のうち

買い物中にご近所のAさんとばったり会った。
旦那さんは何度か脳梗塞を起こして身体が不自由、
他にも色々と持病を抱えていて、
補助具なしには歩けないし会話もろれつが回らないが
介護評価は「要支援」止まりなので公的サービスがあまり受けられない。
Aさんがいなくては生活は全く成り立たないが、
70を越えて全面的に夫を支えるというのは心身ともにかなりキツくなってきているのが
傍目からみてもよくわかる。
始めのうちこそただの世間話を交わすだけだったが
あまりに腰痛が辛そうだったので
1度うちに招いて簡単な治療をしたら
その日を境にして、世間話を省略して介護の愚痴をこぼすようになった。
上品で身ぎれいなAさんの口から
「もう大変で大変で・・・死んでくれって思っちゃうのよ」という言葉が。
「そうですよね！」と相槌を打つとAさんの表情が明るくなるのがわかる。
もちろん、旦那さんや自分の子供にはそんなことは言えないだろう。
しがらみのない相手にだからこそ
本音も、本音じゃないことでも、
愚痴って、悪口言って、すっきりする。
そして言い過ぎたかな、と多分ちょっと反省し、
また渾身の介助をする日常に戻っていくのだ。
鍼灸院に治療に来る患者さんの中にも、
背中に鍼を打つのがためらわれるほど
うつ伏せで枕に顔をうずめたまま、延々としゃべっていている方がいるが
施術が終わった後、晴れ晴れした表情になっている。
おしゃべりも治療のうち、
いや、おしゃべりこそが治療。
辛いことを誰かに話せただけで
身体が軽くなるという経験は誰しも一度くらい経験があるかもしれない。
それが私のところでできたといってくださるなら
本当に嬉しいです。

祐天寺　きよら鍼灸院