看取り先生の遺言

バス停に並んでいたら
横を通り過ぎた若い女の子二人の会話が聞こえてきた。
「犬が死んじゃう話は泣けるんだけど、
人が死ぬ話には全然泣けないんだよね」
「あー、わかる」
・・・
それだけ、人の死が日常から切り離されたものになったということだろう。
在宅ケアで草分け的な存在である仙台の岡部医院(爽秋会)で働いていた細田氏が勧めてくれた本。
たまに岡部先生の寄稿や出演する番組情報を彼が教えてくれていたので
時々チェックしていたんだけれど、昨年亡くなったことは本を読むまで知らなかった。
最後に見たのはNHKの番組で、この先生はずーっとこのまま生きていられるんじゃないかと
思われたのだが・・・

鍼灸師になった理由のひとつには、
将来緩和ケアやターミナルケアに関わりたい、と思ったきっかけがある。
医師でもなく看護師でもなく、西洋医学から離れた立場で患者さんを癒せるようになりたい。
今ではそれはそう簡単に踏み込める領域ではないということを知っている。
しかし同時に、鍼灸師には無理だと失望する必要もないことも実感している。
細田氏は仙台での経験をもとに、鍼灸師が「全人的なケア」を実践できる可能性に触れているが、
そんな場所が自発的に治療院にやって来る患者さん以外の人とも構築できるとしたら
そこには家族も含め必ず理解と熱意のある医療や福祉の関係者が複数介在している。
直接存じ上げないけれども、
この本を読むだけでも岡部先生は凄い人だとあらためて感じその死を悼む。
医師でありながらここまで謙虚に、ただひたすら旅立つ患者さんのためを思って
チームプレイを大切にし、時には一歩引いた態度をとり続けられる人が
日本に他にどのくらい存在するんだろうか。
岡部先生のような医師が増えていけばいいなという思いはあるが、
「人が死にゆくところを見守った経験がない日本人が大半(p.6引用)」になった今
「看取りは文化(p203引用)」であるなら、
そして国が今後在宅ケアを推し進めて行くのであれば
私達は専門職任せにせずに、
まずその失った文化を取り戻す努力も必要であるかと思う。
興味がないととっつきにくいタイトルだが、
3人に1人ががんを経験する時代、
今は縁がないことだと思っている人にも是非読んで欲しい。
NHKクローズアップ現代 天国からの迎え~穏やかな看取りとは~
yomiDr.こころ元気塾 緩和ケア医・岡部健さんインタビュー全文

この記事を書いた人

Saori Takano

「ここに来て良かった!」と心から言っていただける治療室を目指しています。
鍼灸治療は人対人の相性が重要だと思っています。
来院するかどうか迷っている方は
ざっと眺めていただいて参考にしてくださいませ。