「寄生虫なき病」を読みました


表紙の写真はアメリカ鉤虫です。
体長10mmくらいだそうですが、ドアップだとインパクトある!!
免疫学者の藤田紘一郎氏の笑うカイチュウを読んで以来、
「寄生虫は悪者とは言い切れない」という意識は芽生えたものの
うじゃうじゃ存在した頃とほとんどいなくなった今とは
具体的に何が違うのか、に興味がありましたが
そこをまさに突いてくる
「我々は恐るべき代償を支払っている」
というキャッチコピー。
筆者自身に自己免疫疾患とアレルギー疾患があるそうで、
裏表紙を見ると確かに眉も髪もありません。
本の冒頭はまず、自分の身体を張っての実験から。
お金を払ってアメリカ鉤虫に人工的に感染させてくれるところがある、
という事実にびっくりします。
その後、他人の糞便を移植して腸内細菌の改善を図る「糞便移植」や
豚鞭虫の卵を飲む療法など、
流石アメリカ!という話の連続です。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
p170【アレルギー発症のリスクは子どもが摂取する微生物の数に反比例していた」:動物および土壌由来の種類が多い多様で大量の微生物に日々接している 多様性そのものに予防効果がある。
未殺菌の牛乳を飲むこともアレルギーリスクを軽減するが、その効果が微生物か脂肪酸か、ホモジナイズ処理によって失われる成分のお陰かはわかっていない。】
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もう成人だけど、とりあえずこれからも定期的に未殺菌乳は飲み続けよう。
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p234【抗生物質による治療を受けると・・・ 中略 ・・・ブレーザーにとっての緊急の問題は、ピロリ菌と同時に他のどんな有用微生物が消滅しているかということである。】
p236【我々は、微生物という宇宙を、親やきょうだいや環境から受け継いでいる。ブレーザーらは、人間はこの未知の体内生態系をねじ曲げてしまったのではないかと憂慮している。数々の現代病の一因は、この体内生態系の混乱にあるのではないか、と。】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
動植物については目に見えることで
その存在減少や絶滅の危機を知りえるけれども、
体内生態系は学者にしか知りえない世界。
目に見えない世界でも同じことが起こっている。
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私たちはp241【微生物を乗せた宇宙船】
p242【人体内に存在する微生物の細胞とヒトの細胞の数を比較すると、十対一で微生物のほうが多い】
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この表現が、この本の中で私には一番インパクトがありました。
微生物を乗せた宇宙船!!
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これ以降も注目したい記述が沢山ありますが
きりがないのでこれだけで。
とにかく
「免疫系は正しい教育を受けないときちんと発動しない」
という例がふんだんに提示され、
現代になって急激に増えているアレルギー疾患や自己免疫疾患などの難病の原因は
「何かがある」 ことではなく 「何かが不在」
であるのだという仮説が確信に変わっていきます。
単純に、アトピーを治すには豚鞭虫やアメリカ鉤虫に感染すればいい、
とはならない人知のまだ及ばない生態系の複雑さ、ダイナミックなバランス。
長い本を一気に読むのが苦手なので
読み終えるのに半年かかってしまったけど、
本当に面白かった!
この数年読んだ本の中でベスト10に入ります。

この記事を書いた人

Saori Takano

「ここに来て良かった!」と心から言っていただける治療室を目指しています。
鍼灸治療は人対人の相性が重要だと思っています。
来院するかどうか迷っている方は
ざっと眺めていただいて参考にしてくださいませ。